言語論的転回
(注1)によって思想界に訪れた新たな動きは「フェミニズム
(注2)批評」と「構築
(注3)主義」などが有名だ。なお構築主義の対立
概念は本質主義という。これは、男らしさ、女らしさ、という言葉を使って説明するとわかりやすい。
「言語が世界」であるとする言語的転回を経て生まれた構築主義では、「人は人間として生まれてくるだけ。それが男は男らしく、女は女らしくなるのは言語を用いて学習するから」として、女性・男性の違いを決定するのは言語だと考える。一方、本質主義では、男らしさや女らしさは
染色体(注4)が決めてしまうものと考える。極端なことを言えば、無人島に赤ちゃんを連れていき置いてくる。そして10年放っておいても、男は男らしく、女は女らしくなっていると考えるわけだ。
フェミニズムは、構築主義の立場に立つ。フランスの思想家、ボーヴォワールが書いた現代フェミニズムの原典「第二の性」には、「人は女に生まれない。女になるのだ」という有名なフレーズ
(注5)がある。「女に生まれる」というのは( a )である。「女になる」というのは( b )だ。つまり、ボーヴォワールは「①( )」と言ったのである。ここから現代のフェミニズムは出発している。
社会が性を決めるとする( c )の社会学系の研究者と、染色体が性を決めるという( d )の生物学の研究者との間では、激しい対立がある。最近は、生物学が優勢で、フェミニズムはかなり立場が弱くなっている。背景には、ものすごいベースで染色体やDNAについての研究が進み、本質主義が広まっている状況がある。DNAの研究がさらに進むと、人が生まれた直後にその人が持つ能力を測定できる時代がくると言われている。そうなれば、 DNA情報が新たな差別を生み出す危険性がある。それを差別につなげないためには、②
構築主義の立場からの発言が必要になってくるはずだ。
(石原千秋「現代思想は15年周期」
「大学授業がやってきた! 知の冒険(桐光学間特別授業)」水曜社)
(注1)言語論的転回:言語論に基づいてみた社会の変化
(注2)フェミニズム:女性の社会的・政治的を高くし、女性を性差別から解放しようとする考えと行動
(注3)構築:組み立ててつくる
(注4)
染色体:細胞がを分裂するときにあらわれる小体で、遺伝情報が入っている
(注5)フレーズ :句、文