小笠原諸島(東京都)が国内4カ所目の世界自然遺産に登録されることが決まった。観光客増加による経済効果に期待は高まるが、環境悪化が懸念される。各地の自然遺産が抱える共通のジレンマ(※l)だ。
この点は最近、国内初の自然遺産である
屋久島(鹿児島県)で表面化した。屋久島町は今月、島の象徴である縄文杉などへの観光客立ち入りを制限する条例案を議会に提出したが、全会一致で
否決された。縄文杉は樹皮をはぎ取られたりと損傷が絶えないが、町は制限すると宿泊料などで年2億3000万円の損失が出ると試算しており、経済効果を優先させた格好だ。
現在、小笠原諸島では登録後も( A )との意見が日立つ。本土との交通手段が約6日に1回の船便(中略)に限られているのが理由だ。
しかし、大陸と地続きになったことのない「海洋島」にたどり着いた生物は、競争相手が少ないまま世代をつないだだけに、外来種に駆逐(※2)されやすい特徴がある。
外来種は人だけでなく、建築資材や農産物に付着する。国が助言を求めている科学委員会は、物の往来に対する監視強化と、乗船者への検疫を求めている。「ガラスの生態系」と呼ばれる
脆弱な自然をどう守るのか。観光客に入島税を課して外来種対策の財源に充てるのも一案だろう。
(2011年6月25日付け毎日新聞朝刊による)
(※1)ジレンマ:希望する二つの事柄の片方を立てれば、もう片方がよくない結果になるという状況
(※2)駆逐:追い払うこと