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次の文章は、ある小学校の先生が自分のクラスについて書いたものである。
5年生を受け持った時の5月、T男がはつぶやいた(注1)。「僕はやりたくないなあ。だって、どうせ僕にはいいところなんてないもん」。クラスの友達の「いいととろ探し」をしようと提案した時のことだ。
クラス替えをたしばかりで、まだ子ども同士の関係が深まっていない時期である。友達のことを知ってほしい、長所を見つける目を持ってほしい、という意図で提案した。T男のつぶやきを聞き、自信つけをさせるチャンスになるかもしれない、と考えた。
「その人のいいところや、良さを見つけた場面などを書きましよう」と全員の名前を書いたプリントを配布した。リンプトを前に、ニコニコしながら書く子、友達の顔をちらちらと見て書く子、難しい顔で考え込む子など様々だ。それでも表情を見ているだけで、子どもたちが一生懸命友達の良さを見つけようとしている様子が伝わってきた。
T男を見ると、全く書けていない。小声で伝えた。「T男くんの良いところを書いてくれている人がたくさんいるよ」「うそだ一」「うそじゃないよ。習字がうまいとか、係の仕事をちゃんとやっているとか」。聞いてくまざらんもでない(注2)といった表情である。続きを翌週までに仕上げておくことにした。T男も全員の分長所の記人ができた。
提出されたものをまとめ、冊子にして配布した。自分の長所ついにて書かれたものを読んでいる子どもたちは、T男を含め誰もが、照れくさいけれどうれしい、といった表情だった。
(注1)つぶやく:湖声でひとりごとを言う
(注2)まん弄らでずをない:必ずしゃ嫌ではない