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以下は、企業の経営者に向けて書かれた文章である。
①長く同じ活動を行ってきた組織には、安定的な動きができるという長所があります。ところが、こういう組織には同時に、ある一つの方向からの固定的な見方しかできないという欠点もあります。この欠点はなかなかやっかいなものです。こうした見方が組織内に一度根づいて(注1)しまうと、なかなか変えることができない難しさがあるからです。よそから見れば危険極まりない(注2)状態なのに、組織の中では誰もそれにまったく気づかないということが起こるのはそのためです。
これは②組織を支配する「気」が原因です。言葉を変えると、囲まれた本人は気づいていない、空気や雰囲気、あるいは文化といったものといえます。企業のように独特の文化を持つ組織の中では、これが原因で気に囲まれた人々が等しくおかしな見方をしてしまうことがよく起こります。組織の中でふだんから慣れ親しんでいる価値観が、いつの間にかその人たちの価値観になってしまうのです。
この状況を変えることができるのは、じつはトップだけです。トップがやらなければならないのは、組織全体を包んでいる「気」に惑わされない(注3)ことです。そしてできれば見たくないものを逆にしっかりと見るようにして、事業の全体像を正確に把握する(注4)ことです。その上でしっかりと価値付けを行い、組織の人たちが正しい方向に動けるように戦略を示すことができたら、いつの時代も最高の力を発揮できる組織をつくることができます。
(注 1) 根づく: 定着する
(注 2) 危険極まりない: 非常に危険な
(注 3) 惑わされる: 迷わされる
(注 4) 把握する: しつかりと理解する