私は「専門家のための」解説書や研究書はめったに買いません。つまらないからです。(50)、「入門者のための」解説書や研究書はよく読みます。おもしろい本に出会う確率が高いからです。
「専門家のために書かれた解説書」には、「例のほらあれ…参ったよね、あれには(笑)」というような「*内輪のバーティ・ギャグ」みたいなことが延々と書いてあって、こちらにはその話のどこがおかしいのかさっぱり分からず、知り合いの一人もいないパーティに(51)、身の置きどころがありません。
(52)、「入門者のために書かれた解説書」はとりあえず「敷居が低い」のが取り柄です。どんな読者でも「お客さま」として迎えようという態度がそこには貫かれています。
解説書におけるこの「敷居の高さの違い」はどこから来るのでしょう。「内輸のパーティ」と、「だれでも参加自由のパーティ」の違いというだけなのでしょうか。(53)専門書と入門書では、書かれていることのクオリティが違うのでしようか。
私は本質的な違いはそういうところにはないと思っています。
敷居の高さの違いは、「専門家のための書き物」は「知っていること」を軸に(54)、「入門者のための書き物」が「知らないこと」を軸に編成されていることに由来する、と私は考えます。
(内田樹『謀ながら学べる構造王遂』による)
*内輪:外部の者を交えないこと。身内。