私が大学生だった当時、入学式後のキャンパスで、授業科目選択における「楽勝科目」や「ドハマリ授業」の情報を紹介する、学生サークル発行の情報誌が飛ぶように売れていることに強い違和感(※l)を持つた。むしろ単位取得が難しいとされる「ドハマリ授業」を選択するほうが自分の成長につながるのではないか。そう考え、友人たちが「楽勝科目」を中心に授業を選択する中、あえて「少人数の自主ゼミのため出席が厳しい」とか「教授の話は極めて難解。近づかないのが無難」といった評判の授業を選択した。
実際に授業を受けてみたところ、情報誌に書いてあることはかなり正解だつた。確かに教授の話は難解で、睡魔(※2)との戦いだつたoなるほど「ドハマリ授業だ」と思った。しかし、転機(※3)は間もなくやってきた。授業内容があまりにも難解だったため、講義終了後、先生をつかまえて質問をしてみた。するとその回答は意外とわかりやすかったのである。それで味をしめ(※4)、質問を繰り返すうちにそれが楽しみになっていつた。時には時間が足りなくなり、教授と一緒に飲みに行くこともあつたo居酒屋で人生の先輩に開く話は刺激的だつた。(中略)自分のほうから積極的に授業に関与することで、受けている授業が面白くなった。自分で考えて、自分から動くことの重要性を学ぶことができたのは大きな収穫だった。これで私は大学内という狭い世界から、一歩「社会化」することができた。「楽勝科目」だけを選んで、楽しいラクな学生生活を送ることだけを考えていたら、こうした成長をすることはできなかつただろう。
(佐藤孝治『く就活〉廃止論会社に頼れない時代の仕事選びJPHP7究所による)
(※1)違和感:周りのものと合わない感じ
(※2)睡魔:こらえきれないほど眠たい感じ
(※3)転機:ある状態から他の状態に変わるきっかけ、変わり目
(※4)味をしめる:一度上手くいったことから、次もそれを期待すること